『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』を読んで

『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』:エマニュエル・トッド

「日本人への警告」

「ドイツ帝国!大袈裟なタイトル」だなと、思いながら読み始めました。それに、副題は「日本人への警告」です。同じ西側ドイツの何処が日本人への警告なのでしょうか。読み進むと、けして大袈裟でもないようです。

「著者はフランスの歴史学、人類学者」です。一人の研究者として謙虚な防御姿勢で、破壊的なイディオロギーに対抗した一冊です。私には世界の表層しか見えてなかったようです。

はからずも今週、ギリシャ国民は国民投票で「No」の道を選びました。ギリシャのイメージは、「公務員の多さ、怠け者、借金は緊縮しても返すがあたりまえでしょう」です。しかし、それだけで片付けられる問題なのでしょうか? ギリシャの強気の選択です。ドイツ以外のユーロの国々の人の本音はどうなんでしょうか? そして、EU、ドイツはどう対処するのでしょうか?

私は、1987年から25年間、ドイツ企業で働いていました。1989年の「ベルリンの壁崩壊」、2002年の「統一通貨ユーロ」が導入された時、同僚のドイツ人達は、そろって「これで我々ドイツ人の福利は低下する」と、嘆いていました。しかし現実は、著者が述べているように、ソビエトの崩壊で、地勢的に優位のドイツは、東ヨーロッパ国々の優秀で安い労働力を利用して競争力を高め、最大の貿易黒字をユーロ圏内でだしています。状況は、著者が言っている「一人勝ちのドイツ、ヨーロッパはドイツ、ドイツがヨーロッパ」が現実なようです。突出したパワーの擡頭(たいとう)と、ともなう奢り、「権威主義的文化」には「帝国」の匂いがします。

未来の世界のパワーバランスはどうなるか、その時日本はどの位置にいるのか、サイエンスフィクションのように推理できる一冊です。読みながらマーキングした箇所の一部を、引用編集、順不同で紹介します。

ユーロ終焉で困るのはドイツ

もし、ユーロが終焉したら、ドイツ以外の国は通貨を切り下げるでしょう。一番困るのはドイツです。

ドイツの擡頭を認めたがらないフランスとアメリカ

擡頭してきた正真正銘の強国、「それはロシアである前にドイツだ」。

この現実を認めたくない2つの国が、現実を見えにくくしている。

  • 「まずはフランス」、この国はドイツに隷属するようになった事実を認めない。それはフランスがドイツを制御できるレベルにないという事実を、完全に認めなければならないのだから。フランスは大統領選挙を選んでも何も起こらない。つまり、フランス大統領の大統領にはもはや権限がないのだ。特に通貨システムに関して。
  • 「そしてアメリカ」、今日アメリカ人の眼を覆って、ドイツの擡頭について正しい見方をすることを妨げているように思える。彼らにとって、ドイツの擡頭は新しい脅威であって、所詮帝国の外にいるロシアよりも、はるかに危険なのだ。

南欧に嫌われるドイツ

ドイツはイタリアで、ギリシャで、またたぶん南ヨーロッパ全域で、ドイツが押し付ける財政規律の上でひどく嫌われている。しかし、それらの国々は何もできない。なぜなら、ドイツがフランスを伴って、いっさいを支配している能力を有しているからだ。

アメリカシステムの方が平等

今日、政治的不平等は、アメリカシステムの中でよりも、ドイツのシステムの中での方が明らかに大きい。ギリシャ人やその他の国民は、ドイツ連邦議会の選挙では投票できない。

ロシアは脅威ではない

  • ロシア脅威論は西洋が病んでいる証。EUはもともと、ソ連に対抗して生まれた。ロシアというライバルなしでは済まないのだ。
  • アメリカが動因であるような伝統的東西紛争はもはやない。最近の危機は全面的に、ウクライナへのヨーロッパの介入と関係している。
  • 発生している現象の地理的現実を観察するならば、ごく単純に、紛争が起こっているのは昔からドイツとロシアが衝突してきたゾーンにだということに気づく。
  • ロシアは世界がバランスを保つことに役立つ強国なのさ。核兵器とエネルギー自給のおかげで、あの国はアメリカに対する反対側の重しの役目を果たすことができる

ガスパイプライン

ロシアにとって本当の問題は、ウクライナでけでなく、ガスパイプラインの到着点がドイツにコントロールされていることなんだ。同時に南欧の問題でもある。

アメリカの凋落

ウクライナ危機など、アメリカの戦略はドイツに追随することだった。そうしていれば、アメリカは、もはやヨーロッパの状況をコントロールしていない、ということが露見しないからだ。サウジアラビアの裏切り、韓国の中国への接近など、ヨーロッパでけでなく、いたるところでアメリカのシステムにひびが入っている。

ドイツの中国への接近

「ドイツ帝国」は最初はもっぱら経済的だったが、すでに政治的なものになっている。ドイツはもう中国と意志を通じ合わせている。

イギリスはドイツ覇権よりアメリカ覇権の方がマシ

自分の属するネイション、1フランス人として、私は躊躇なくアメリカを選ぶよ。私にしてそうなのだから、イギリス人の場合、どっちを選ぶなんて分かりきっている。

ドイツのせいでロシア接近を阻まれた日本

現在起こっている衝突(ウクライナ問題)が日本とロシアの接近を停止させている。エネルギー的、軍事的観点から見て、日本にとってロシアとの接近はまったく論理的なのであって、安倍首相が選択した新たな政治方針の重要な要素でもある。

ドイツと日本の類似と差異

日本社会とドイツ社会は、元来の家族構成、経済面でも非常に類似しています。差異もあります。日本の文化が他人を傷つけないようにする、遠慮するという願望に取り憑かれいるのに対して、ドイツ文化はむき出しの素直を価値付けます。ドイツに比べ、日本では権威がより分散的で、つねに垂直的であるとは限らず、より慇懃(いんぎん)でもあります。

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