梶井基次郎の「檸檬」

梶井基次郎の「檸檬」

若い時初めて読んだどきは、ただ暗く、退屈な小説と思っていた梶井基次郎の「檸檬」、いつの頃からかKindleを開いては時々読むようになりました。そして丸善140周年で限定数発売された『万年筆と文庫本のセット「檸檬」』まで買ってしまいました。

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明るい小説ではありません。結核をわずらい微熱が続き、精神も蝕まれていくなかで書かれた、薄暗い背景に浮かび上がる淡華やかな色彩と幽かな匂いが、なぜか五感を揺さぶります。

—-びいどろという色ガラスで鯛や花を打ち出してあるおはじきが好きになったし、南京玉が好きになった。またそれをなめてみるのが私にとってなんとも言えない享楽だったのだ。あのびいどろの味ほど幽かな涼しい味があるものか。–—

子供の頃は私は体が弱くよく熱を出していました。そんな熱があるとき、布団の中で卵のかたちをしてツルツルした石を手のひらで転がしたり、こっそりビー玉を口にいれていたことを思い出します。

京都には梶井基次郎が描いた寺町通りの八百屋の風景がいまでもあるような気がします。ひさしの上は真っ暗なのに、ひさしの下に裸電球で照らされ暖色に浮かび上がる野菜、そしてレモンイエロウの絵の具から搾りだしたような檸檬、それに京都丸善の薄暗い本棚の前に積み重ねられた本の上に置かれたカリフォルニアイエロウの檸檬、冷たい檸檬を握り、鼻に押し当て胸いっぱいに檸檬の匂いを吸い込んでみたくなります。

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