桜庭一樹の『私の男』

「私の男」:映画を観る前に、読み直してみました。

「私の男」が二階堂ふみ、浅野忠信主演で映画化されました。先月、映画を観る前に「私の男」を読み直しました。ここ数年の直木賞小説で、「あー小説家だなー」と思ったのは、桜庭一樹の「私の男」と山本兼一の「利休にたずねよ」です。二つの小説に何の関連もありません。あるとすれば、どちらも現在から過去にさかのぼって書かれていることでしょうか。

篭っていた情念を吐き出したようなストーリー

タブーな近親相姦

タブーな近親相姦の話です。作者の桜庭一樹は女性なので読む後ろめたさも薄れます。

この小説は、1993年7月12日の北海道南西沖地震の奥尻島の津波で両親と兄妹を亡くし、ひとり生き残った小学4年生の花(9才)を、遠縁で紋別の海上保安庁に勤めていた腐野(くさりの)淳悟(36才)が引き取ることに強くこだわり、父親になったことが始まりです。2007年の出版で、東日本大震災をモチーフした小説ではありません。実際、1993年の奥尻島の津波では200人以上の死者が出ています。

交り合う二人の汗に花の匂いがする

花と淳悟、親子である二人、寄り添う二人、花の妖しい母性愛、肉体を求め合う二人、そして殺人者である二人、何重にも絡まった解けない絆、交じり合う二人の汗に妖しい花の匂いがします。

小説は「私の男は、ぬすんだ傘をゆっくり広げながら、こちらに歩いてきた。—」から始まり、淳悟の姿、表情、振る舞いの形容表現が緻密で、私は劇画のようなイメージで読みました。親子で愛人の関係は殺人を犯しても守りたい強い絆であることを書きたかったのだろうか。女は、子供でも男を母のように癒せる妖しい女になれる本然の性があることを書きたかったのだろうか。推理小説のようなところもある、実は、花は淳悟が17才の時の実の娘である。血の絆の究極を書きたかったのだろうか。などと読んでから無理に考えて見たりしました。でも、先入観なく、ちょっと妖しい小説と思って読んだ方が良いと思います。

最後までタブーの情念を貫く不道徳が好きです。

「おとうさん、おとうさん、私の男」、殺人者として捕らえられることもなく、最後まで不道徳なこの小説が好きです。

わたし個人の感想です。あらすじは多くサイトで述べられてます。そちらをご覧下さい。

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