何度も読み返している村上春樹の『職業としての小説家』

村上春樹はフェアな作家です。尋常ではない村上春樹という作家を知りたがっている読者に、きちんと文章で自分を語りながら、自分経験を伝え授けようとしています。

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『職業としての小説家』:村上春樹

『職業としての作家』は、『風の歌を聴け』までの生い立ちから、長編、短編、エッセイ、そして翻訳、37年間書き続けてきた、職業作家としての自分の心構え、手法などを集大成した村上春樹の自伝エッセイです。

内容はもちろん”職業としての小説家”ですが、”職業としての〇〇〇”の人でも一級のハウツー本として読むことができます。村上春樹ファンは村上春樹のオリジナリティの秘密らしきものも知ることができます。

講演のように第1回から第12回まであり、私は一度通して読み、時々ある回を開き繰り返し再読している。

目次紹介

第一回:小説家は寛容な人種なのか
第二回:小説家になった頃
第三回:文学賞について
第四回:オリジナリティーについて
第五回:さて、何を書けばいいの?
第六回:時間を味方につける-長編小説を書くこと
第七回:どこまでも個人的でフィジカルな営み
第八回:学校について
第九回:どんな人物を登場させようか?
第十回:誰のために書くのか
第十一回:海外へ行く。新しいフロンティア
第十二回:物語のあるところ・河合隼雄先生の思い出

第2回の「小説家になった頃」から一部引用します。

初めての小説『風の歌を聴け』を書き始めたとき、自分の文体に苦労したことを具体的に述べてます。要約できないので引用します。

ーーーとは言え「感じたこと、頭に浮かんだことを好きに自由に書く」というのは、口で言うほど簡単なことではありません。とくにこれまで小説を書いた経験のない人間にとっては、まさに至難の業です。発想を根本から転換するために、僕は原稿用紙と万年筆をとりあえず放棄することにしました。万年筆と原稿用紙が目の前にあると、どうしても姿勢が「文学的」になってしまいます。そのかわりに押し入れにしまっていたオリベッティの英文タイプライターを持ち出しました。それで小説の出だしを英語で書いてみることにしたのです。とにかく何でもいいから「普通じゃないこと」をやってみようと。

もちろん僕の作文能力なんて、たかがしれたものです。—<中略>—内容をできるだけシンプルな言葉に言い換え、意図をわかりやうくパラフレーズし、描写から余分な贅肉を削ぎ落とし、全体をコンパクトな携帯にして、制限のある容れ物入れる段取りをつけていくしかありません。ずいぶん無骨な文章になってしまいます。でもそうやって苦労しながら文章を書き進めているうちに、僕なりの文章のリズムみたいなものが生まれてきました。

ーーー<中略>ーーー僕がそのとき発見したのは、たとえ言葉や表現が限られていても、そのコンビネーション持って行き方によって、感情表現・意思表現はけっこううまくできるものだなということでした。

ーーー<中略>ーーーとにかくそういう外国語で書く効果の面白さを「発見」し、自分なりの文章を書くリズムを身につけると、僕は英文タイプライターをまた押し入れに戻し、もう一度原稿用紙と万年筆を引っ張り出しました。そして机に向かって、英語で書き上げた一章ぶんくらいの文章を、日本語に「翻訳」していきました。

ーーー<中略>ーーー僕が自分の手で見つけた文体です。そのとき「なるほどね、こういう風に日本語を書けばいいんだ」と思いました。まさに目から鱗が落ちる、ということです。

こんな秘密の村上春樹流ノウハウがたくさん述べられいます。

文庫本が出版されました。

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