綿矢りさの『インストール』、『蹴りたい背中』、『ひらいて』を読んで

『インストール』、『蹴りたい背中』、『ひらいて』:綿矢りさ

“最年少芥川賞受賞作家で話題になった作家”,それが綿矢りさについて知っているすべてでした。『蹴りたい背中』を読んだのは数年前です。読み終えてすぐに『インストール』を読みました。そして、世の中には恐ろしく早熟な天才はいるんだな、と思いました。『インストール』、『蹴りたい背中』、『ひらいて』は、女子高生の高校生活を書いた小説です。でも、胸を揺らせて青空にジャンプしたり、春風にスカートをなびかせたり、といった青春物語ではありません。成熟しつつある女子高生の、もやもや、ドロドロと体内で揺らぐものを、蛇口を開いては閉じて、外に出そうとしている、そんな小説です。綿矢りさは、五感で感じたこと、気持ち、動作の描写の名人です。佐藤優も自分の著書で、「綿矢りさは思ったことの90%以上表現できるが、私は30%もできない。」と言っています。

『インストール』

高校二年生の冬休みに書き上げたそうです。プロの作家になるという意気込みが感じられます。奇想、繊細な風景描写、遠慮のない性表現、思い切りの良さがあります。尊敬してファンになってしまいます。

私のあらすじ

高校三年の朝子。受験勉強で疲れている 。受験戦争から脱落して、学校を休むことになる。早速早退して夕方まで眠る。目を覚まし、窓から射す西日が照らされた部屋の汚さに恐怖を感じ、部屋の大掃除を思いつく。部屋のすべてを捨ててしまおう。祖父が買ってくれたコンピューターだけは迷った。スイッチを入れたが正常な起動画面にならない。捨てると決意する。マンションのゴミ捨て場に最後にコンピューターを置くと、疲れて寝転がった。「大丈夫ですか?」小学生くらいの男の子が声をかけてくれた。男の子は壊れているはずのコンピューターを「直せる」と言って持ち帰る。

ひょんないきさつで、その男の子(かずよし)の家へ訪れる。家には彼の他に誰もいない。コンピューターは部屋の押し入れのなかに置いてあった。
大人のように冷静なかずよし、
「僕と組んで働く?」
「どんな仕事?」
「フウゾクなんです。チャットで男の人とエッチな会話するだけです」
かずよしは女性に偽ってチャトでアルバイトをしていた。そして私は、家の鍵を預かり、かずよしが学校に行っている時間に”みやび”の名前でチャト嬢として押し入れのなかで働くことになった。

ぬれた。一つHな言葉が書かれるたびに、一つHな言葉を書くたびに、下半身が熱くたぎって崩れ落ちそうになり、パンツが湿った。会話の内容に感じるというより、自分が今やっていることの不健康さに感じてしまうのだ。
かずよしに言われた通り、漢字を使わずなるべくバカっぽい言葉で、ただ流れる如く客の男の興奮の勢いに乗って言葉を作るだけである。
しんすけ>雅ちゃんは何歳ねんや
みやび>26さい***
しんすけ>もうおばんやないかー俺は乳首がピンクの女子高生と話したいねん
みやび>みやびもぴんくだよお
しんすけ>ほんならええわ
みやび>ありがとっ

落ちはある。「努力しなさいよ。私も学校に行くから。何も変われていないけど。」
かずよしは驚いた顔をして私を見つめ、そのまま、おめでとうとうと言った—」


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『蹴りたい背中』

いためつけたい。蹴りたい。愛しさよりも、もっと強い気持ちで。女子高生のもやもやした気持ちを、少しサディスチックに表現しています。けして心地よくはない匂いがするような小説です。

私のあらすじ

私、初美、高校二年生。友達がいない私は余りもの、そしてもうひとりの余りもの、にな川。この男、少しおかしい。膝の上で女性ファッション誌を読んでいる。後ろから覗きこんだファッション誌のモデル「—あ、この人に会ったことがある」と私が言うと、いきなり、にな川が私のほうを振り向いた。それから、”オリチャンマニア”のにな川との、余り者同士の奇妙な関係が始まる。

何故か、にな川の部屋に招待される。彼は素早く私の背後にまわり、来た、ブラジャー外されるかも、と脇の下に力を入れたら、目の前にボールペンとメモ用紙を差し出され、「オリチャンと会ったところの地図を描いて」と言った。ほれられたんじゃないの、見当違いもいいところ。
オリチャンのラジオ番組に夢中になっている。振り向いた顔は、至福の時間を邪魔されたように迷惑そうだった。ぞくっときた、息が熱くなってきた。無防備な背中を蹴りたい、痛がるにな川を見たい。

予定表が真っ白な夏休み、にな川からオリチャンのライブのチケットが余ったからと誘われる。友達の絹代を誘って三人でライブに行く。にな川はぴくりとも動かない。彼のオリチャンを見る目つき、飢えた目つき。
絹代に腕をひっぱられた、「にな川ばっかり見てないで、ちょっとステージを見たら? にな川のこと本当に好きなんだね」
好きという言葉と、にな川に対して抱いている感情との落差にぞっとした。

遅くなって帰れなくなり、私と絹代はにな川の部屋に泊めてもらう。にな川はベランダで寝ると言って、ベランダに出て窓を閉めた。
寝ころんだ暗闇のなかで、「にな川がオリチャンのところに走っていった時のハツ、ものすごく哀しそうだったよ」と絹代が言った。
「そんなことはない」
「そんなことある」絹代が頑固に言う。私の表情は私の知らないうちに、私の気持ちを映し出しいるのもしれない。

私はベランダに出た、にな川はベランダのすみで体を小さく丸めている。
「オリチャンに近づいていったあの時、おれ、あの人を今まで一番遠くに感じた」と言って、私に背を向けた。
蹴りたい。愛しさよりも、もっと強い気持ちで。爪先を彼の背中に押し付けたら、親指の骨がぽきっと鳴った。


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『ひらいて』:綿矢りさ

『蹴りたい背中』以来、久々に高校生を描いた小説です。思春期の心にぐるぐる渦巻くマグマのようなものを抱えた女子高生のゆがんだ恋愛表現です。女子高生の性描写を同性愛で、同性の繊細な関係で表現したところが『蹴りたい背中』から一歩踏み出しています。五感、六感を思いのままに表現できる綿矢りさの小説です。
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私のあらすじ

私、高校三年の愛は、同級生の”西村たとえ”に恋をする。他の子たちは人を好きななる理由がある。かっこいいから、とか、—–。でも私は、彼のどこが好きになったのかをうまく表現できない。気を惹かせるような私の行動に、彼は何の関心も寄せない。ある日、階段下で、白い便箋らしきものを読んでいる彼を見かける。

友達とふざけた気分で夜学校に忍び込む。そして教室の彼の机の引き出にあった茶封筒の中に手紙の束から1通の手紙を抜き出す。
「信じられない」、差出人は美雪
「もしかしてあの美雪なの」
一年生のとき、私、彼と同じクラスだった。入学式では目立っていた。アイドルのような子がいると囁かれた。しかし、I型の糖尿病の彼女が、制服の裾をめくって注射を打つようになってから、彼女の人気は衰え、友達も去っていった。
その美雪がなぜ彼と付き合っているの? 私は美雪に近づいた。「彼への恋心が流れて、なぜ美雪への接近まで変質したのか、自分でもわからない。」
手紙の”美雪”が美雪であることを確信する。

そして美雪と同性愛の関係になって、彼から美雪を奪おうとする。自らの身体をすべて私に任せて、瞳を未知の恐怖にちらちら動かし、しかし従順に刺激反応して潤みを増してゆく美雪を見つめていると、いままで感じたことがない美雪への独占欲が生まれた。
さらに、美雪になりすまして彼を誘いだし、服も下着脱いで彼に迫る、マグマが噴き出したような行動に、
「おまえみたいな奴が大嫌いなんだよ。なんでも自分の思う通りにやってきて、—–」と罵り去られる。

恥の意識が貫いた。なぜ彼らを引き裂けると思ったのだろう。彼らは私を無視しても、拒否してもいない。でもそれが余計に、私と彼らとの間の見えない壁を感じさせる。何も残らない不毛の片思いだったわけではない。ゆがんだ中にも、はじめて彼の眼は語り、美雪との間には愛情とも友情とも言えない、肌恋しい点線のつながりが残った。


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速読は特殊能力ではない。

小説は速読を意識しては読みません。でも、二回、三回と読むときは速読になります。再読して初めて気づくことが多くあります。
速読は特殊な能力ではありません。基本的なトレーニングと速く読むという気持ちがあれば、誰でも3倍は速く読めるようになります。
家で、家族でトレーニングできます。詳細は…川村明宏のジニアス速読術

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